前橋市、かなり強気の税金徴収方法ですね。
税金を払えるのに払わない人、払いたくても払えない人…。
どちらにも公平に払ってもらいましょう、っていう事なのでしょう。
できれば桶川市のように、多重債務相談窓口を設置して、多重債務を解決しつつ税金を徴収する方が、市民からは喜ばれ、その後の徴収率も上がるのではないですかね?





「公平」徴税 是か非か
(2010年08月18日 朝日新聞)


 景気低迷で税収が減るなか、前橋市は税滞納者の財産を差し押さえる姿勢を強め、徴収率を上げている。税の最大原則の公平性を保つためだ。だが、「これでは生活できなくなる」と滞納者の悲鳴も聞こえる。国民の義務か、生きる権利か――(木村浩之)

 前橋市の50代の会社員は給料日、給料の一部が信用金庫の口座から消えていた。手取り22万円なのに12万円しか残っていない。信金に確認すると市に10万円差し押さえられていた。昨年秋のことだ。

 40代の妻と2人暮らし。10年前に建てた一戸建て住宅のローンは月8万円。借金する銀行に頭を下げ、返済の猶予を頼んだ。

 固定資産税などの滞納は、延滞金も含め数百万円に上る。3年前まで土木業を営んでいたが、公共事業が減り廃業、滞納額も増えた。市の担当者から持ち家の売却を迫られている。妻は家計を悲観し、夫に黙っておなかの子を堕(お)ろした。

 「税金を払えず申し訳ないと思う。でも払いたくても払えない。行政は生活実態にまで目を向けてほしい」

 前橋市のパート従業員の50代女性は今年1月、住民票を前橋市から別の市に移した。

 「もう前橋市に税金を払いたくなかったんです」

 昨年春。生命保険会社から保険解約の連絡があった。聞くと、65歳になると年数十万円もらえる年金型生命保険を差し押さえられていた。

 市から家の売却を迫られ、結局、昨年夏に手放した。4世代の大家族で暮らしていたが、離散。大学生の長女と床の傾いたアパートで暮らす。

 「私たちって、悪徳市民なんでしょうか」。女性は心療内科でカウンセリング治療を続けている。

 「これでは生活できないではないか」。税金滞納者の女性に同行した司法書士が前橋市役所で声を荒らげた。銀行口座に入金された児童扶養手当を差し押さえられたという抗議だった。

 だが、効果はなかった。市は地方税法と国税徴収法に基づく財産調査で、女性が複数の預金口座を隠し持っていることを把握していた。「『生活がぎりぎりだから』と税を滞納するのに、預金を持っていたり、高級車に乗っていたりする滞納者はかなりいる」と、収納課職員は打ち明ける。

 これまでは滞納者が泣きつくと詳しい調査もせず、強く納税を求めなかった。しかし国民健康保険税を含む市全体の累計滞納額が100億円に上り、2005年度から差し押さえに力を入れ始めた。納期2期ほど滞納がみられたら財産調査するのが原則。早めに対応すれば、滞納者の負担も軽いという判断という。

 人口約35万人の同市。04年度徴収率(前年度までの滞納分をのぞく)97・3%から、09年度(決算見込み)は98・66%に上がった。全国の42中核市のなかで3位の徴収率。滞納繰り越し分にかぎると1位だ。徴収率が1%上がると5億円以上の収入増になる。

 年間約6千件の差し押さえを実施する同市に対し、人口が同規模の高崎市は1200~1300件。伊勢崎市は約1500件。

 両市は前橋市の取り組みを評価しながらも、「滞納者との交渉が第一。差し押さえは最終手段」という立場だ。

 前橋市収納課では「滞納者の財産をきっちり調査し生活実態をみている。払う余裕のない人から差し押さえはしていない」としたうえで、「本当は差し押さえはしたくないが、徴収できるところからだけ徴収するのでは、公平公正ではない」と説明する。

 人口約8万人の埼玉県桶川市は2007年10月、「多重債務相談窓口」を設けた。多重債務に悩む市民の多くが市税や学校給食費を滞納しているとみて、関係12部署で情報交換する態勢を整えた。

 電話相談に応じるほか、各課で把握した多重債務者の情報を共有する。多重債務者に弁護士や司法書士を紹介し、過払いを解消するなど支援の仕組みを整えている。

 税の滞納整理として年間約400件程度の差し押さえをする一方、多重債務を解決することで07年度は340万円、08年度1146万円、09年度1315万円の滞納税の納付につながった。市税徴収率(滞納繰り越し分含む)も、05年度の91・25%から、09年度93・73%に上がった。

 「市民の生活改善が第一。税の納付はその結果だ」と担当職員は言う。

 差し押さえの問題に取り組んでいる伊勢崎市の仲道宗弘・司法書士は「桶川市の例を群馬の自治体も見ならうべきだ」と指摘する。

 対して前橋市は「数年前までは多重債務と滞納の問題が密接に絡んでいたが、いまは聞かれなくなった。仮に問題が見つかれば、専門家を紹介するなど個別に対応する」とし、桶川方式は参考にしない考えだ。

 

 ◇差し押さえ禁止財産◇

 地方税法、国税徴収法によれば、給与や期末手当、老齢年金など生活に欠くことができない財産は、全額の差し押さえが禁止されている。

 ただ、一度預金口座に入金されれば、余剰財産とみなされ、差し押さえは可能になるという最高裁判決もある。県などによると、差し押さえを実施するかどうかは、家族構成や収入などの状況をみながら各自治体が判断している。